私は、とても幸せでした。
歳を重ねることもいいものだなと、幸せを感じました。映画を観てこんな気持ちになるのは、久しぶりです。
「男と女 人生最良の日々」。
半世紀以上も前に世界的なヒットを記録した映画「男と女」が、同じ監督と俳優でまた戻ってきました。金曜日の午後でしたが、初日ということもあり、会場は中高年の方々でほぼ埋まっていました。
”ダバダバダ♪”
人気のカー・レーサー(ジャン=ルィ・トランティニャン)と一人の女性(アヌーク・エーメ)との結ばれぬ愛を描いた物語から、50年以上が経ちました。彼は今介護施設に入居し、徐々に記憶を失いつつあります。
彼の息子は、父親とその女性をもう一度会わせようと思い、彼女を見つけ出し、再会までこぎつけます。空想、現実、夢。彼の頭の中にはそれらが渾然一体となり、現れては消えていきます。
「他の女は忘れても、あの女だけは覚えている」と。茶目っ気たっぷりに詩を諳んじたりする彼。52年前も素敵だったけれど今のジャン・ルィには大人の男の色気を感じます。
その姿を見つめながら、彼女は静かにそして優しく、思い出を振り返るのです。
考えてみると、このような映画を観られること自体、まさに奇跡です。監督、俳優、皆さんの熱意で改めて完成させたのですね。「今こそ、人生最良の日々だ!」という監督(クロード・ルルーシュ)の制作意図を見事に作品にしたのです。
決して後ろ向きにならない、人生の穏やかな賛歌を伝えたかったのでしょう。この物語はあたかもキャストのその後の、そして今の人生の”ドキュメンタリー”のように感じるシーンもありました。
そのリアリティーは二人の俳優のアップでも感じました。彼らの目の表情は意思的であり、記憶のまばらな彼にさえ、隠された意志が存在することを暗示しているように思えました。
そして、髪をかきあげるアヌーク・エーメのしぐさは、「人生最良の日々」が依然継続していることを強く主張する姿なのかもしれませんね。
「どんな年齢でも愛し合える」という監督のメッセージが伝わってきます。
映画を観た後、乾いたのどを潤そうと行きつけのバーに向かいました。そこは若い女性がおいしいお酒をだしてくださるコーナーです。こんな素晴らしい映画を作った監督に乾杯!でも、シャンパンではなく、私の好きなウイスキー「山崎」をロックで。
私が当時観た「男と女」は52年前。フランシス・レイの音楽に強く魅かれ、「男と女」の心のひだまではとうてい理解できなかったと思います。それにしても当時26歳だったルルーシュ監督。観る私は24歳。フランス文化の違いなのでしょうかね~。
飲みながら、介護施設にいるジャン=ルイに対し、施設の女性は決して幼児言葉を使わなかったことに気づきました。記憶がおぼつかない彼に対しても、人格を認めて接している、これは監督の訴えたいことの一つなのだ、と強く感じました。
ユーモアに満ちていて、心を揺さぶるドラマ。
「素晴らしい俳優によって演じられる、二人の登場人物の旅を通して人生観を描きたかった」と語るクロード・ルルーシュ監督。
”ありがとうございます、感謝です”
やはり「山崎」をもう一杯。
あの頃はこういう時にはシャンパンを飲んでいたのかもしれません。
映画公式サイト http://otokotoonna.jp/