高野山

南海電鉄高野線の終点、極楽橋駅で降りると山の空気が違います。ここから高野山まで、ケーブルカーで一気に登ります。

真言密教の聖地、高野山は弘法大師・空海が約1200年前に開山し、世界遺産に指定されています。「祈りの対象に宗派は関係ない」というのが、空海の思想です。アフガニスタンで4日朝、銃撃された中村哲医師もこの思想があれば亡くならないですんでいたのに・・・胸がしめつけられます。

約4000人が住む標高900メートルの聖地。高野山駅からは宿坊まで山間を抜けバスで10分ほど。今回の宿坊は金剛峯寺近くなのでとても便利です。奥乃院までも歩いて1時間。

その日は夕方に着いたので宿坊でゆっくり精進料理をいただきました。高野山名物のごま豆腐をひと口。薄味で上品な味。こんにゃくや、刺し身に見立てた料理など。よく考えられた旬の食材も使われていて満足です。そして般若湯を一本。般若湯とは「知恵を生むお湯」。つまり、お酒。友人とお互い一本づつ。翌朝は4時起きなので早めにやすみました。

何度か訪れている高野山・奥乃院。御廟までの参道約2キロの間には、20万とも30万とも言われる供養等が建ち並んでいます。何げなく眺めていると不思議な気持になります。織田信長と明智光秀。徳川家と豊臣家。親鸞と法然。中にはキリスト教の十字架。真言宗の総本山でありながら、他宗派の供養塔も。”祈りの対象に宗派は関係ない”という空海の自由な祈りを体現しているのですね。

翌早朝、宿坊を出て奥乃院まで星空の明かりを頼りに歩きます。薄暗い、というより真っ暗な道は凛とした空気、樹齢数百年の高野杉が包みこんでくれます。この山を平地にした空海の苦悩が偲ばれます。

一歩一歩、足元を見ながらの奥乃院までの1時間は”幸せ!”と思わずつぶやいておりました。そうなのです。一度は赴ってみたかった、そして体験したかった「生身供(しょうじんく)」。

入定後の空海のために行なわれる配膳。5時半には御廟前の玉川に掛かる御廟橋のたもとでお待ちします。寒さに震えながら耳をすますと包丁のトントンという音、よい香り、空海の朝ごはんの準備をしている気配を感じます。

シャンシャンと鳴る半鐘の合図に引き戸が開かれ、黄衣の僧侶が3人現れます。先頭を歩く高僧、続く二人が白木の櫃を長棒で担いでいきます。気が付くと外国人女性の二人がじっと見つめています。

僧侶たちの後をついて御廟前の塔籠堂の中に招かれます。千年以上、毎日、毎日行なわれる365日続いている「お大師さまの朝ごはん」勤行を拝見し、”続けること”の深さをあらためて感じました。

高野山1200年の祈り。

夜も明け、早朝の参道を大急ぎで宿坊にもどりました。7時半の朝食に間に合うように。朝食のときに始めて顔を合わせる宿泊客。なんと20名の中で日本人は私たちだけです。欧米人、中国の若いカップル。フランス人母娘は海苔を珍しそうに眺めていました。皆さん畳の座敷で美味しそうに精進料理を召し上がっていました。

金剛峯寺、高野山霊宝館には空海の書、曼荼羅、仏画、仏像(最近判明した快慶作の)仏さまにも出逢えました。大きな曼荼羅の前の椅子に座り、密教の世界観、宇宙・・・わずかな陽光が射し込む部屋でしばらく自分自身と向かい合うことができました。

帰りは千メートル級の峰々に取り囲まれた盆地を見ながらわずか5分のケーブルカーで極楽橋駅到着。現実の世界です。

今回は”自分と対話する旅”でもありました。
旅ってやっぱりいいですね。

「高野山」への2件のフィードバック

  1. 浜さん、前回のブログ記事では長谷寺と室生寺への旅の様子を、そして今回のブログ記事では高野山への旅の様子を詳しく綴ってくださり、ありがとうございました。

    浜さんがこれまで1度も長谷寺を訪ねたことがなかったというのは意外でしたが、奈良県民の1人としましては“おんな二人旅”と称して、室生寺と共に訪ねてくださったのが嬉しかったです。

    ただ、京都まで新幹線で移動した後に近鉄沿線へと乗り換えの際、かなり京都駅構内が混雑していたのではないでしょうか?

    ちょうど時期的にも、紅葉シーズン真っ只中であったり、天皇・皇后両陛下が即位礼と大嘗祭終了を奉告する「親謁の儀」のため、奈良や京都をご訪問された時期と重なっていたようですから…。

    余談ですが、私は今から7年前(30歳の時)に“パニック障害”を発症して以降、遠方への旅行は勿論のこと、京都駅のように大きな駅構内での人混みでごった返すような場所へ出向くのがものすごく苦手になってしまった(こういうのは“広場恐怖”と称されるそうですが、とにかく人混みでごった返すような場所へ出ると、突然焦燥感に襲われてしまうことが多くなりました。)ので、いつか再び、そうした人混みに対する苦手意識や不安感を感じなくなるまでに、ゆったりとした旅気分を味わえるようになりたいと感じています。

    今回も、前回に引き続いて、素敵な“おんな二人旅”の様子を綴ってくださったことに感謝いたします。
    おかげで私も、ブログを介して旅気分を味わうことができました。
    本当にありがとうございました。

    中村 有香

    1. ハッスル・レディーさん

      ブログお読みいただきありがとうございました。
      今回の旅も充実しておりました。

      京都駅での乗り換えは問題なく、スムーズでした。車窓から眺める晩秋の景色は素晴らしかったです。写真家・土門拳さんの写真に魅せられ室生寺にはもう、そうですね、8,9回はお訪ねしているでしょうか。

      長谷寺にはまた秋に伺いたいと思います。高野山は念願がかない早朝に行くことができました。

      日本は素晴らしいところがたくさんございますね。外国の方が魅了されるのも分かります。

      どうぞお風邪など召しませんようお元気にお過ごし
      くださいませ。

      浜 美枝

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