ポーラ美術館×ひろしま美術館 印象派、記憶への旅

寒暖の差が激しい初春、私の住む箱根は先週はいきなりの真冬日。雪が一日降り続きましたが、それでも日差しが徐々に増してきて、吹き渡る風も穏やかになり、柔らかな風に誘われて一日ポーラ美術館で『印象派、記憶への旅』展を楽しんでまいりました。

今回の展覧会は、絵画を鑑賞する以外にもとても興味深い展示がされています。

「箱根の自然と美術の共生」をコンセプトに、2002年に開館したポーラ美術館は都心から車で約1時間半。強羅から、ひめしゃら林道を通り、木漏れ日坂を抜けたところに建っています。

建物を取り囲むように670m遊歩道が延び、四季折々の景色が楽しめます。私が山暮らしを始めて40年ちかく経ちますが、箱根の風景はもちろんのこと、こうしていくつもの美術館に囲まれて、ふっとその気になったらバスで訪れることができる・・・最大の魅力です。

モネ、ゴッホ、マティス、ピカソ、ルノアール、シスレー、スーラ、ロートレック、ゴーガン・・・などなど。19世紀の画家たちの旅と記憶、都市や水辺の風景に向けられた”画家たちのの視線、風景の印象や移ろいゆく光の変化”などが楽しめます。

ポーラ美術館は3点のゴッホ作品を収蔵していますが、今回私がとても興味深くぜひ知りたい!と思ったのは同館と東海大学との共同でこの3作品について科学調査を行ったのです。

赤外線、紫外線、X線、蛍光X線、透過光写真などを使って、絵画に残された筆跡や制作の痕跡をたどり、「記憶への旅」で作品がもつ記憶をカンヴァスの裏側から読み解いていく、というものです。

ゴッホの『草むら』。ゴッホは耳切り事件の後、アルルの病院に入院し、病院の庭で見たと思われる草花や、草の茂みを色鮮やかに緑、黄色を用いて、強いタッチで描いています。

展覧会では写真でカンヴァスの裏に残った謎のサイン。サインのような文字。そして本来ならば「裏打ち」されているのにこの作品はなされていません。謎!です。そして、今回の調査で、「草むら」の下に緑色の葉がある「黄色い花の野原」のような作品の上に「草むら」を描いたことが分かります。なぜなのでしょうか・・・精神を病んでいたゴッホ。弟テオに作品を送るさい木枠から外して送ったといわれます。その裏側に秘密が隠されているのでしょうか・・・。

37年という短い生涯を終えたフィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)。

南仏アルルに到着して手掛けた『ヴィゲラ運河にかかるグレーズ橋』は喜びが伝わる作品です。

橋の上の人物、その奥の低木、洗濯女たちの輪郭は赤が使われ明るい陽光に満ちた絵。浮世絵に影響を受けたとされる作品ですが、赤い絵の具などに「水銀」が含まれていることが今回の調査で分かりました。

絶頂期から死の一カ月前に描かれた『アザミの花』。斜光写真から「草むら」などよりかなり厚塗りされているとのこと。こちらも「裏打ち」されておりません。ゴッホがどんな絵の具を使い、どのように描き、そのときの心情を想像し、画家ゴッホを身近に感じ、絵画を楽しむ。

今回の展覧会は見どころがいっぱいありました。変わりゆく街、パリを描いた作品、光の新しい表現、水辺の風景・・・画家たちの「記憶への旅」を体感しながら私も一日の”旅”を経験してまいりました。

この展覧会では一部を除いてフラッシュをたかなければ写真撮影が可です。

残念ですが、ゴッホ、ピカソなどは不可でした。写真で存分に味わってください。でも、できたらこれからの箱根はゴールデンウイーク後位に満開に咲く山桜、そしてコブシ、紫陽花、初夏にま真っ白い大きな帽子のように咲く”やまぼうし”などをご覧になりながら本物の絵画と出逢いにいらしてください。

帰りには間もなく新緑を迎える庭をうららかな陽光を浴びて散策し、家路に着きました。

美術館公式サイト
https://www.polamuseum.or.jp/

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