柳宗悦の「直観」美を見いだす力

箱根の我が家のまわりでは今、ロウバイが可憐な黄色い花びらを広げています。寒さはこれからが本番ですが、澄みきった青空の下で咲くロウバイの花を目にすると、冬の後には必ず春が来ると感じさせられ、心がぽっと温かくなるような気がします。

先日、東京で早めに仕事を終えた帰り、日本民藝館の『柳宗悦の「直観」美を見いだす力』展を見てきました。駅から民藝館までの道にもうらうらと日ざしが降り注いでいて、胸を弾ませながら、心地よく歩くことができました。

――美しさへの理解は、知識だけではなく「何の色眼鏡をも通さずして、ものそのものを直に見届ける事」、すなわち直観が必要である――。日本民芸館の創設者である柳宗悦先生はそのようにおっしゃっています。中学時代に柳先生の著書に出会い、お考え、美意識、生き方のすべてに感銘を受けた私は、以来、柳先生を心の師として、その足跡を追ってきました。

民藝館の前で、建物をカメラに収めているフランス人の50代のカップルに気が付きました。和風意匠を基調としつつ、随所に洋風を取入れた旧館は柳宗悦先生が中心となり設計された建物。石塀は国の有形文化財に登録されています。

「なんて美しいの」「素晴らしい」カップルから漏れ聞こえる感嘆と賛辞の言葉に、わがことのように嬉しくなりました。

今、欧米やアジアでも、日常の中の美が見直されています。王侯貴族だけに許される華やかな道具、あるいはお祭りや特別な日にだけ使うものだけではなく、毎日の暮らしに存在する道具の美しさを大切に思う、まさに柳先生が見出した美意識や価値観が静かに浸透しつつあります。

朝、起きて、顔を洗い、食事をし、家族と語らい、自分なりの役割を果たし、夜、安らかに眠りにつくという、意識にもあがってこないくらい当たり前の日々。けれど、美しい道具を大事に使うことで、ひとつひとつの動作が丁寧になり、その小さな積み重ねが日常を味わい深いものに変えてくれると、私も実感します。

日本民藝館の中には、中国や韓国からの方々もいらっしゃっていて、みなさん熱心に柳先生が集められた名品をご覧になっていました。最近、どの美術館でも海外からのお客様をお見掛けすることが増えてきたとは気づいていました。

確かに柳先生は朝鮮陶磁の美を見出した先駆者ですし、かの地でその存在をご存知の方もいらっしゃるとは思います。けれど、いわゆる観光地から離れた場所にこじんまりと立っている民藝館にまで足を延ばしてくれる海外からのお客様が増えていることに、感動を覚えずにはいられませんでした。

今回の展示は、柳先生の眼差しを追体験してもらうため、説明や解説が省かれていました。それもひとつの考え方であり、そうした趣向、展示方も理解できます。けれど一方で、はじめて民芸という思想に触れ、民芸の名品を目にする人にはやはり、直観を働かせるための手がかりのようなものが各国語であってもいいのではないかとも思いました。

多くの観光客が来日するようになり、その数はこれからますます増えるだろうと予測されています。そうした人々も視野に入れ、在り方を進化させている美術館や博物館も数多くみられます。

自然との共存、人との和の中で培われ、受け継がれてきた民芸は、効率、成果、結果を第一に求めがちな現代に、もうひとつ大きな幸福があることを教えてくれます。

日本で生まれ育った民芸という美、普遍的な価値観を、日本人のみならず、世界中の人に知っていただきたい、柳先生が唱えた美しい道具を使う美しい国を世界に発信していっていただきたいと切に願っています。

そして、未来を担う子供たちへも手渡していってほしいです。『美』を。

特別展公式サイト
http://www.mingeikan.or.jp/events/special/201901.html

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