映画『祈り』

岩波ホール創立50周年記念・特別企画で上映されているのが、『祈り三部作』の「祈り」「希望の樹」「懺悔(ざんげ)」です。

3作品の中で私は「祈り」を観てまいりました。監督はジョージア(グルジア)の巨匠・テンギズ・アブラゼ。荘厳なる映像詩「祈り」は51年の歳月をかけて日本で初公開されました。

ジョージア映画が誕生して今年で110年になるそうです。自国の民俗文化を取り入れてソ連邦時代をとおして、激動する時代の影響を受けながらも、かずかずの名作を制作してきました。テンギズ・アブラゼ(1924-1994)監督の三作品は20年近くの歳月をかけて完成されたそうです。「祈り」(67)「希望の樹」(76)「懺悔」(84)

コーカサスの厳しい自然を背景に、人々の対立をモノクロームの荘厳な映像ではじまります。冒頭に、ジョージアの国民的作家ヴァジャ・プシャヴェラ(1861-1915)の

「人の美しい本性が滅びることはない」

という言葉がスーパーででます。

監督の願いがこめられているのでしょか。まず、そこで胸が熱くなります。コーカサスの美しくもあり厳しい山々に囲まれた村、分断と対立が広がる現代に、監督は私たちに何を手渡そうとしているのか・・・人間の限りない愛情と信頼、寛容、愛、自由に対する祈りがこめられているのでしょうか。

映画ですが、セリフはいっさいありません。全編ナレーションです。ストーリーは隣り合って暮すヘヴレティの住民山岳地方のジョージア人とキスティ(チェチェン・イングシー人)の間の争いを描いています。

宗教の違う人間同士。自ら殺した男の果敢な戦いぶりに感じ入った主人公が村の掟(腕を切って持ち帰る)に従わず村の長老の怒りを買い、村を追われます。

宗教の異なる異民族の男を尊敬すべき相手として認めるのですが、社会がそれをゆるしません。私はこのあたりの歴史や文化をよく理解していないのですが、全編が叙事詩です。モノクロームの光りと影、辺境ともいえる中世の石造りの家々。白と黒のコントラストは、きっと監督は善と悪、光りと闇の対立を意識しての映像なのでしょう。

美しい白い衣服を身にまとった女性。とにかく映像がこの上なく美しいのです。全編が沈黙。ナレーションによって映画は進められていくのですが、ひとこと一言が社会的不正義を告発し続けた監督の人間への深い信頼と愛、自由への祈りがこめられているように想いました。

51年ぶりにこの映画を観ることができ岩波ホールに感謝です。そして、人種や宗教が違えども人間は信頼にたりうるのだと深く感じ取らせてくれた監督に感謝です。

残りの二部作品も近々観にいくつもりです。テンギズ・アブラゼ監督のファンになりました。過去の9作品全部観たいです。

岩波ホールを出て、しばらく神保町の街並みを歩き、その余韻に浸り、心が静かになり、温かな気持ちになりました。

素晴らしい映画でした。
10月13日(土)~26日(金)まで岩波ホールでジョージア(グルジア)映画際が開催され新旧の未公開作品が一挙上映されます。

岩波ホールの公式サイト
https://www.iwanami-hall.com/

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