民藝の日本 柳宗悦『手仕事の日本』を旅する

日本橋高島屋で9月11日まで開催されている展覧会に行ってまいりました。


展示即売があることもあり、皆さん熱心に産地からのたくさんの素晴らしい民芸の品々をかごの中に入れておられました。
柳宗悦を中心に陶芸家の濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチらが提唱した民芸運動は、美術品ではなく名もない工人がつくった生活道具がもつ”用の美”。旅しながら蒐集したそれらの民芸品が一堂に会しています。
高島屋は、民藝運動の当初から彼らに共感し、民藝の普及に応援してきたようです。展覧会場には芹沢桂介の日本民藝地図が飾られていて、柳を中心に北海道から沖縄までくまなく旅したことがよく分かります。『人の手のぬくもり』にねざした「用の美」へ、また感心が高まってきたことを感じます。
「私と民藝」は、女優になるちょっと前、中学二年生のときに出会った一冊が、もしかしたら民藝運動に夢中になる土台を作ってくれたのかもしれません。柳宗悦の「民藝紀行」や「手仕事の日本」をくり返し読みました。
「手仕事の日本」の冒頭では『この一冊は戦時中に書かれました。紀してある内容は大体昭和十五年前後の日本の手仕事の現状を述べたものであります。戦争は恐らく多くの破壊を手仕事の上に齎らしたと思います。それ故私がここに記録したものが見出されます。例えば沖縄の場合の如き今では想い出語りとなったものが多いでありましょう。しかし、どの地方においても、失われた幾許(いくばく)かのものは、必ずや起ちあがる日があるに違いありません』ではじまります。
柳さんは、日常生活で用い、「用の目的に誠実である」ことを「民芸」の美の特質と考えました。若かった私にはむずかしいことなどわかるはずもありません。でも、新しい美を発見した感動と衝撃は、幼いなりに、たしかなものだったように思います。私が柳さんの本を読みながら思い浮かべていたのは、日常、私が「美しいなぁ」と感じる風景でした。
たとえば、父の徳利にススキを挿し、脇にはお団子を飾り、家族で楽しんだお月見の夜・・・。
昭和55年から3年間、土曜の朝8時からの担当した毎日放送ワイド番組「八木治郎ショーいい朝8時」の中で「手作り旅情」・・・日本の伝統工芸を訪ねて・・・は私の最も好きな枠であり、私の旅への想いのすべてをかけたものだったと自負しています。
それも、柳宗悦の用の美を求める旅に大きく影響を受けています。
高島屋の会場で真剣に、また笑顔でそうしたモノとの出会いを楽しんでおられる方々を拝見していると、時代はまた「手のぬくもり」を求めていることに気づかされます。
ご興味のある方は「手仕事の日本」が講談社学術文庫からでており読みやすいです。日本文化が世界的に注目される現代、柳宗悦の示唆に富む想いをもう一度手にしたいと思う展覧会でした。

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