静かなる情熱 エミリ・ディキンスン

岩波ホールで映画『静かなる情熱 エミリ・ディキンスン』を観てまいりました。
エミリ・ディキンスン。米国を代表する詩人ですが、生前発表された作品はごくわずか。
1886年、ほとんど無名のまま55歳で亡くなり、彼女のクローゼットの引き出しに入っていた1800編近くの詩稿が見つかり世の脚光を浴びた・・・というくらいの私の知識ですが、彼女の人生そのものに興味がわき詩を読むと、正直であろうとするがゆえの孤立、孤独。
あの時代を果敢に生き抜いた力強さを感じます。映画の冒頭では、既成のキリスト教の枠組みではなく自分の信念のもとに神と向き合い、また信仰や女性のあり方に正直に心の中の真実と向き合う。
今の時代とは違い、南北戦争・・・あの時代のアメリカでそのような女性がいたことに驚きを覚えますが。理屈はともかく、武満徹さんが詩から着想をえて「そして、それが風であることを知った」を作曲し、サイモン&ガーファンクルは彼女にまつわる歌「エミリー・エミリー」「夢の中の世界」をアルバムにおさめています。
美しい映像、そして監督・脚本はイギリス人のテレンス・ディヴィス。撮影監督・美術監督・衣装デザイナー・・・素晴らしいスタッフです。ロケは実際にエミリが暮した館がロケにも使われています。マサチューセッツ州アマストの名士の家に生まれ、ほとんど外部との接点はなく、その館で暮らしたそうです。
女であること、愛への憧れ、生と死・・・。名声への葛藤。映画なのですが、監督は私的なドラマを深く掘り下げ、観る側の私たちをスクリーンの奥へと誘っていきます。エミリを演ずる女優シンシア・ニクソンが素晴らしく、エミリとオーバーラップしてしまいます。
そのはず、シンシアはエミリの大フアンで彼女の詩をすべて読んでいたそうです。このような映画はあまり語らずに、ご覧になる方の五感で観ていただきたいです。監督がエミリ・ディキンスンへの深い敬愛が感じられ、心地よく観られるのでしょうね。
1シーンだけお話しますね。エミリが心を許し、緊張感もほぐれるシーンで印象的な室内でのランプの明かり・・・この場面を観るだけですべてを感じとれるシーン、素敵です。それから主演のシンシアの朗読は、さらに深みをまし秀逸です。
  心はまず 喜びを求める
  それから 痛みを容赦してもらうこと
  それから 苦しみを鈍らせる
  この小さな鎮痛剤の粒
  それから 眠ること
  それから もしそれが
  心の審判者のご意志なら
  死の特権をここへ
魂の自由を考えさせられる映画でした。
映画公式サイトはこちら

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