映画「セールスマン」


イランの名匠アスガー・ファルハディ監督作品「セールスマン」を観てまいりました。
日常生活が外部の侵入者により突然破壊される生活。仲のよい若い夫婦の穏やかな暮らしが一変していく。演じるのは夫・エマッド(シャハブ・ホセイニ)とテヘランで暮す女性・ラナ(タラネ・アリドゥスティ)。
この映画は本年度アカデミー賞「外国語映画賞」受賞。第69回カンヌ国際映画祭脚本賞&男優賞W受賞作品です。
素晴らしい映画でした。緊張感に満ちていて、実にリアルな演技によって引き込まれていく。仲の良かった夫婦の間に溝をつくり、復讐に燃える夫。なぜタイトルが「セールスマン」なのか・・・。映画をみて初めてわかりました。アーサー・ミラーの「セールスマンの死」からひもとかれていきます。
主人公は高校の国語教師。自由時間には妻のラナとともに地域の小劇場で役者活動もしている。舞台は劇作家アーサー・ミラーのピューリッツアー賞受賞作「セールスマンの死」からはじまります。監督と主演女優はトランプ大統領の入国制限令に抗議して受賞式をボイコットしながら「別離」に続いて2度目の外国語映画賞を受賞して話題をよびました。
乱開発により隣の建設工事で崩壊の恐れが生じ、二人は新しいアパートに引越します。公演にむけ稽古をし、ひと足早く家に帰ったエマは悲劇に襲われます。名誉を重んじるイラン社会。作品では夫は一人で犯人を捜し、悲劇的な結果になるのですが、主演したラナ役のタラネ・アリドゥスティはインタビューでこのように語っています。
「暴行された女性は自分の行動に問題があったのかと悩み、何か発言しても相手に受け入れてもらえないのではと自信をなくしてしまう。それは世界中かわらないはずです」。
とにかく脚本が素晴らしいです。そして現代のイランの状況、現代的なライフスタイルと伝統的な価値観の狭間で生きる人々、夫婦の姿を監督は見事な作品に仕上げています。
映画が始まると女優達がスカーフを髪にまいていなければ、どこかヨーロッパの映画かと思わせる洗練されたセンスの良いスクリーン。しかし、しばらくすると「名誉と恥」という伝統的な世界が見えてきて、人間の根源的な愛、生き方を深く静かに考えさせられた映画でした。そして、そこには紛争のたえない民族対立がくすぶる現代に監督は”ヒューマニズム”をこめてこの映画を現代のわれわれに問いかけてくれました。
渋谷のBUNNKAMURAル・シネマで観たのですが、観終わってからはしばらくサスペンスから抜け出せず、白ワインを飲み、心を静めてから箱根の山に戻ってきました。
映画公式サイト
http://www.thesalesman.jp

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