『思うこと』

先日、スタジオジブリから原稿依頼がありました。
小冊子『熱風』の8月号です。
ご存知のようにスタジオジブリはアニメーションの制作会社で、宮崎駿監督作品「風立ちぬ」「千と千尋の神隠し」「となりのトトロ」など数々の名作を生みだしている制作会社です。
アニメーション以外にも出版も手がけておられます。『熱風』は「スタジオジブリの好奇心」というキャッチフレーズのもと、毎月書店などに配布している非売品です。
今回の特集は「木の家を愛する者として」です。
皆さまご存知でしたか?
「省エネ法」の義務化により、2020年から「昔ながらの日本の木の家」が建てられなくなってしまうそうです。私は知りませんでした。
省エネ法・・・とは
省エネを推進ということで一般家庭でも2020年から、北海道から沖縄まで「冬は暖房を20度以上、夏は冷房を27度以下」に保てる建築にしなければならなくなり、かかるエネルギー消費量(冷暖房、換気、給油、照明)の上限数値も決められており、基本的には断熱材を完全に入れた建物にした上で、消費電力の少ない新しい省エネルギー対策済み家電(エコ家電)を導入しなければ数値はクリアできなくなってしまうのだそうです。
つまり薪ストーブやこたつ、扇風機などは「省エネルギー対策効果の良くない設備」ということになるそうなのです。断熱材が入らない土壁や真壁、ガラス戸の縁側と障子など昔ながらの日本の家の作りは「省エネルギー対策がされていない建築」としてマイナス判定となり、国が決めた数値をクリアできません。
もちろん省エネへの取り組みはとても大切なのですが、数奇屋造り、土壁、昔ながらの古民家など、日本の伝統的な家作りができなくなってしまう・・・ということだそうです。
信じられません。
日本の景色や建築技術の伝承も変えてしまいかねないのです。
私は「趣のある美しい街並みをつくるのは伝統の力と人々の熱意」だと思っております。
図書館で、柳宗悦先生の本に巡り合い、民藝という美の世界を10代で知り、以来、今まで50年、日本全国様々な町や村をお訪ねしてきました。
日本が高度成長期、私が旅していたころ、古いものは価値がなく、新しいものがよしとされた時代。地方では何百年も人々の暮らしを守ってきた古民家が壊されていった時代でもありました。
ダムの底に沈んだ村もありました。
ようやく日本が、まさにジブリが描いてきた「美しい日本の風景・暮らし」が大切だということで見直されつつある時代、このような法律が成立しようとしているのです。
日本の風土にあった伝統的、あるいは歴史的な家が今後、作れなくなってしまう可能性があるということを知り、胸が痛くなりました。
『家はもっとも大きな民藝』。人々の暮らしの在り方を物語る、私たちの文化の基本です。もちろん、それぞれの暮らしのあり方は様々です。でも、ヨーロッパなどに行くと古き良きものは大切な財産・・・自分たちの手で修理し、壁を塗り、補修しながら暮らしています。美しい景観が保全されています。
最近は海外からの観光客も増えています。
観光地だけではなく、日本の里山に人気が出始めました。
“え、こんなところにも外国の人が”・・・という光景にも出会います。それは、私たち日本人にとっても「心のふるさと」のような場所です。
「国が数値を決め、日本の風景が大きく変わろうとしています」
文化を一度断ち切ってしまうということは、それを作ったり修復したりする技術も手放すことでもあります。
2015年8月10日配布の『熱風』8月号をご覧ください。
そして、このブログをご覧くださっている皆さまのご意見もお聞かせください。

「『思うこと』」への5件のフィードバック

  1. 省エネ法の義務化や昔ながらの木の家が建てられなくなることは私も知りませんでした。
    お気に入りの温泉地の由布院では、日本全国から古民家10棟以上を移築して出来上がった宿の常連になり、わが心のふるさとの古川では飛騨の匠の技巧に感嘆し、すっかり、古民家の首ったけになってしまった私には悲しい限りです。
    飛騨の里山にも、最新の技術を使用した鉄筋の民家を見かけるようになりましたが、やはり、日本の里山には、木造の日本建築がよく似合うと思います。
    2年前に心臓病の疾患で倒れて以来、美しい里山とそこに点在する古民家の景色は、私にとっての精神的な癒しの場所なのです。
    里山の田園風景の中に国籍不明の住宅だらけになったら私の心は
    引き裂かれそうです。
    何とか、特例を設けるなどして、木造建築が建てられ、古民家や伝統的匠の技が継承される方法はないのでしょうか?できるだけのことはしたいと思うのですが。
    「熱風」、拝読させていただきます。
    2015.07.26.天生のカタクリ

  2. カタクリさん
    ブログへの投稿ありがとうございました。
    そうなのです、私も今回の省エネ法は知りませんでした。
    日本全国を旅しておりますと、ほんとうに美しい景観、
    人々の穏やかな暮らしにせっすることが出来ます。
    それも、先人達がご苦労され築いてきた暮らしです。
    汗して田畑を耕し、米を作り、そんなご苦労があって
    始めて里山の田園風景が守られているのですね。
    しかし、現実には高齢化が進み、耕作放棄地や廃屋に
    なっている現実もございます。
    今回のような法での規制はさらに美しい暮らしが
    守られなくなります。
    由布院、飛騨古川など私も何度も通ったところで
    友人達もいてくださいます。
    まさに癒しの場ですよね。
    その後、お身体のほうは大丈夫でしょうか。
    ご無理をなさいませんよう、御自愛くださいませ。
    浜 美枝

  3. 「省エネ法」の義務化により、2020年から「昔ながらの日本の木の家」が建てられなくなってしまう.。。。。。私も知りませんでした。
    日本では昔から古民家、数奇屋、そしてその細部に亘る建具、金物、装飾、などなど、大勢の職人さんの技が結集して一軒の家が建てられてきました。
    その技の伝承こそが今一番日本が大切に守っていかなければいけない事だと思っております。若者が学ぶにはもう遅すぎる職人技もあるようで、本当に残念です。農業もそうでしょう。
    世界でも特にイタリア、スペインの悲劇は、自分の家の稼業である職人技を継ぐよりビジネスマンになる夢を見た若者達が、今や稼業も無くなり他のユーロ圏に出稼ぎに行かなければ仕事がない時代となってしまいました。そしてその国の本来の魅力は失われてしまいました。
    日本はそのような時代を経て、今漸く昔ながらの民芸、農に注目が集まってきているように思いましたが、日本人として、日本の住まいを大切にし、四季折々五節句のしつらえを感じる心こそ、夏は涼を感じ、冬は暖を感じられるのではないでしょうか? Neferより

  4. Neferさん
    ブログへの投稿ありがとうございました。
    おっしゃる通りですね。日本の文化は職人さんたちの技で伝承されているのですもの。
    その魅力を放棄せざるをえなくなったら大変なことです。
    ほんとうの豊かさを知り始めた、とくに若者が増えてきたことは有難いし、
    嬉しいかぎりですが、イタリア、スペインのようにならないでほしい・・・と切に願います。
    そして、日本の四季を感じながらの暮らしは大切にしていきたいと思います。
    浜美枝

  5. 浜美枝様
    カタクリです。私の体調をお気遣いいただき有難うございました。本日、「熱風」の記事「木の家を愛する者として」を拝読させていただきました。今日まで伝えられてきた木の文化を断ち切らずに後世に伝えらないかという気持ちを強く持ち、我々の祖先が築いた文化や古民家を紹介する機会や教育が重要と感じました。
    二十台の頃、某住宅会社の経理のお手伝いをし、この会社の営業会議にも何度も参加しました。営業マンは住宅販売のノルマに必死で、購入者は押されるままに、日本の素晴らしい伝統住宅や文化に接することなく、自分の給料で手に入れられる快適な家を手に入れることに必死な姿を見てきました。庶民には日本の伝統的古民家や文化などを知る機会や考える機会がありえません。皆、必死に金銭的物質的な豊かさを追い求めていたように思います。私も大病を患うまでは、会社員として、いわば、物質的豊かさを求めて高速道路をブレーキも掛けずに突っ走っていたのかも知れません。古民家や里山には関心はありましたが、病気をしたことで以前から訪れていた飛騨古川を訪れても、目から鱗が落ちたかのように、あの美しい家並を再認識しました。
    また、日本人が日本人でなくなり、日本人として日本の良さや伝統を知り、学ぶ機会がなければ古民家、伝統的建築はなくなるとも感じております。短期間で、古民家や伝統建築などの重要性を説いても、社会で理解を広めるのは困難で、時間をかけ、学校教育等で今の子供たちが大人になるころまでに長い年月をかけて、社会全体で古き良き古民家や伝統に理解を深めてもらう土台を築く必要があると思っており、少しでも理解を深めていくためのお手伝いができれば思っています。その為にも少し、古民家や伝統建築、里山等を勉強してみたいと思いました。
    本日、1泊2日の人間ドックが終わり、何とか体調にも大きな問題はなさそうで、9月にまた、また、妻と古川を訪問します。古川でのサイクリングや古民家滞在が、私の何ものにも代えがたい、栄養補給なのです。残暑厳しき折、浜さんもどうぞご自愛ください。 
    平成27年8月13日 天生のカタクリ

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