萩への旅

今回の旅はちょっと硬いテーマ。
全国農村アメニティー・シンポジュームで「農業の危機の克服に向けて」~農業と集落の再生へ~という会に出席いたしました。
第一部の講演は萩の野村市長と私でした。
そして第二部はシンポジューム。

私はこのような仕事のときはなるべく早めに現地入りし、現状をしっかりと見せていただくようにしています。2日前に萩入りし、まずはどうしても拝見したかった山口県立萩美術館・浦上記念館で開催されている「古萩・江戸の美意識」展に行きました。
「一楽・二萩・三唐津」と謳われ、侘び数奇に適う茶の湯のお道具として高い評価を得てきた萩焼の茶碗。これほど見事なお茶碗をこれだけ一同に拝見したのは初めてです。
“江戸の美意識”
その多様性にとんだ豊かな美意識に圧倒され、声も出ないほどの感動でした。その後は小雨降る中の城下町を散策。国指定史跡に指定されており、周辺は今も江戸時代の地図がそのまま使える程町筋が残っています。萩藩御用達の豪商菊屋家やなまこ壁の土蔵、高杉晋作誕生の地、など往時の面影をとどめたものがたくさんありました。
夜は旅の楽しみのひとつ、一人でのんびり、地のものをいただき、熱燗でのひととき。至福の時間です。40年近く旅を続けてきて、その町を知るにはこの”ひとりの時”がとても大切なのです。
翌日は役場の方のご案内で萩市内を1日かけて拝見したしました。
萩市は合併により、東京23区くらいの広さです。
旧萩市中心部は平坦な地形が多いですが、ほとんどが山間地にあります。

そして、6つの離島「萩・六島村」。
農林水産業と観光都市として有名ですが、山間地においては過疎化が進み、耕作放棄地も増えてきました。高齢化も進み、これから何が必要か・・・そんなことを考えながらの一日でしたが、はじめに向かったのが、「萩をまるごと詰め込んだ市場」の”萩しーまーと”。鮮魚や水産加工品、地元産の野菜に果物。地元生産者が集結して運営されているこの市場は漁港直結だからでしょうか、町の市場より安く新鮮です。鮮魚は持ち帰れないので乾物のあれこれ、野菜、果物などを箱根に持ち帰りました。
そして、地域に根ざした三見(さんみ)シーマザーズで昼食。海のお母さんたちの作る定食の美味しいこと!日本海を見ながら獲れたての魚は最高ですが、ここも高齢化率は40%を越えています。
漁業者は40名程度で、中心は60歳から70歳、若者は6~7名です。
でも、海のお母さんたちは元気いっぱい。
創意工夫した、いか寿司やあじの押し寿司など・・・美味しかった!
おばちゃんたち・・・ご馳走さまでした。

生産現場は「千石台だいこん産地」とトマト生産者を訪ねました。
千石台は戦後開拓でこの土地に入り、農業共同組合を設立し、黒色火山灰土が大根の生産にふさわしい・・・ということでがんばっておられます。トレーサビリティーへの確立にも積極的です。
周りを山々に囲まれての収穫。
共同体のシステムが和む地域でもありますが、朝は3時には起きて収穫し、新鮮な野菜を消費者に届ける・・・土とともに生きる人たちの顔は輝いています。
「山口あぶとトマト」の生産現場も徹底した土づくりを基本にし、選果場のパート等が地域の雇用の場を創出していました。熱いハウスの中での作業も女性は「すごいですよ、頑張りは女性のほうが上です」とご案内くださった男性が語ってくださいました。部会全員がエコファーマーに認定されています。
最後に合併には入らなかったお隣の阿武町まで足を延ばし、友人達にお会いしてきました。元気に加工品をつくり、こちらも頑張っておられました。

帰りは菊ヶ浜の海岸線を見ながらホテルに戻りました。
ここは「日本の夕日百選」に選ばれた絶景です。
本番のシンポジュームでは『農のある風景』~これからの地域活性化に向けて~というテーマでお話をさせていただきました。
○グリーンツーリズムについて。
気候風土の違い、生活スタイルの違い、休暇にたいする意識の違い、日本では週単位の長期休暇制度が確立されていませんから、ヨーロッパとは比較できませんが、これからの新しいライフスタイルとして、「農」のあるライフスタイルは人びとの望むところです。そのためには農村は美しく、農村が農村でなければなりません。「都会の人たち」のために農村があるのではなく、そこで暮らしている方々が快適に過ごす事が重要です。「主人公はあくまでも自分たち」を守っていただきたいと思います。
○『農村は、私たちの心の故郷』です。
共にヨーロッパでグリーンツーリズムを学んできた仲間の女性の活動を報告しました。岐阜県山県市美山のとびきり魅力的な女性たち「ふれあいバザール」。バザールが発足して今年で15年が経ち、女性ならではの素晴らしい底力、しなやかさには目をみはります。オープン以来の黒字経営。生産、加工、食堂経営とサポーターの生産者、地元の方々、他県の人・・・非常にバランスのとれた「人と産物と環境」を感じる活動です。
○最後に、「なんもない・・・」から「クールな田舎へ」をテーマに「クールな田舎をプロデュースする」独自の理念を挙げ、交流人口の増加を目指して観光コンサルティング会社「美ら地球」(ちゅらぼし)をスタッフ6名と立ち上げ今年で3年目を迎え、活動をしている方々をご紹介しました。
リーダーの方は国立大学院を卒業後、5年前までは米国や日本のコンサルティング会社で企業変革の支援プロジェクトや社員研修などを担ってきましたが、「ちょっと休み、日常と異なる世界に身を置きたい・・・」とそんな思いで奥さんと約2年世界を旅し、日本の「イナカ」に対する外国人の関心の高まりと、海外で日本の地方を知る機会の乏しさを実感したといいます。

「自分も戦前からの暮らしや文化が残る地域に住み、海外の人との橋渡しする仕事がしたい」そう思い飛騨古川に築約100年の家を購入し自宅も兼ねて起業しました。
木造建築は、飛騨のみならず、世界に誇る日本の財産です。
そんな古民家が空き家になってきました。
飛騨民家プロジェクト」を立ち上げ、「飛騨民家のお手入れお助け隊」ではボランティアが都会から来て、梁、柱、床などを磨き、美しい町並みを保存し、「古民家貸し出し」に大きな反響があり、IT企業を誘致しました。これは地元の建設会社と共同です。環境省などが主催したエコツーリズム大賞、特別賞にも選ばれた「飛騨里山サイクリング」は外国人には地元住民との交流が出来ると好評だそうです。

少子高齢化や都市への人口流失、地方を取り巻く現状は厳しさを増していますが、「否定的なイメージしか持たれていない田舎も、実は我々や次の世代の生活の場としてすごく理想的。必要な役割を担っていきたい」・・・と語ります。
これから、新たな世代に挑戦の場を準備することも大切でしょう。
地方部の景観や営みの存続、継承は「需要側」の間だけではなく「供給側」にも問題があるのかもしれません。
飛騨古川に素晴らしい若者たちが”新しい風”を吹き込みます。
今回の3日間の旅では、私自身大いに学び、刺激を受け、また「現場を歩く大切さ」を実感致しました。
民族学者、宮本常一は山口県周防大島の出身です。
心の師を持つ幸せも実感しながらの旅でした。

「萩への旅」への4件のフィードバック

  1. 《萩》に行きたくなりました。
    日常の生活から解放され、旅に出る。
    そんな時、やっぱり《ひとり》がいいですね。
    その土地の人たちと触れ合い、その土地の空気を感じるのは
    《ひとり》でないと味わえません。
    それはいつまでも心に残ります。
    若い時から培ってきたことが、今生かされてる事に喜びを感じます。
    冷蔵庫に野菜が詰まっていると、しあわせ!って思い、
    農家の方に感謝できる今の私がいます。
    今日も、素敵なお便り有難うました。

  2. そうですね。
    旅の味わいかたには”ひとり”・・・もいいものですね。
    もちろん友との旅も感動を分かち合いながらのおしゃべり。
    でも、日常から少し距離をもち「自分との対話」は素敵です。
    浜美枝

  3. 先月、萩のすぐ近くの長門峡に行って参りました。
    リンゴや梨、蓄膿で頑張ってらっしゃる農村地域です。
    美しい山や川に囲まれ、紅葉がまた綺麗でした。
    私は愛媛県で農業をしておりますが、田畑は無粋なコンクリートの整備が進み過ぎて、癒される農のある風景とは言いがたいところです。
    ただ、丘に広がるみかん畑から見る瀬戸内の海。特に夕暮れ時の造船所のある風景は、昔と変わらず絵になります。ここを守り続けるのが私の仕事と、ここに立つ度、発奮致します。
    貴重な取り組みとご報告、有難うございました。

  4. なおわんさん
    ブログへの投稿ありがとうございました。
    萩の旅は学ぶことばかりでした。
    日本の景観の美しさは、その地域に住む方々の
    ご努力によって守られているのですね。
    愛媛には何度も伺いました。
    「丘に広がるみかん畑からの瀬戸内の海」美しいですね。
    皆なで守っていきたいです。
    浜 美枝

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