秋の一日

秋の日はつるべ落としといわれますが、この季節、本当に、ストンと夕闇が訪れます。小田原ではまだ空の夕焼けの赤が残っていても、バスが我が家の近くの停留場に着くころには、とっぷりと日が暮れています。
けれど闇が濃ければ濃いほど、月はいっそう冴え冴えと光はじめます。満月のときなど、光の粒が空から四方に放出されているかのように。
停留場から我が家までは細い道を数分歩くのですが、月がそっと背中を押してくれる、そんな気さえするほど、その光は優しさに満ちています。
我が家の石段をあがると、空がさっと開けて・・・・・家に入ってしまうのが惜しいような気がしてならず、夜風に髪を揺らしながら、全身で月の光を浴びながら庭にしばし佇んでしまうこともたびたびです。
月に照らされて浮きぼりになる富士山や箱根の山々の稜線。
まるで濃淡の水墨画のようなみごとさです。
自然が見せる幻想的な風景に思わず言葉を忘れてしまいます。
『中秋の名月』
どうでしょうか・・・雲などに隠れてしまうと「無月・むげつ」
雨が降ってしまうと「雨月・うげつ」
ほんのり明るい風情もまたいいものです。
ススキを飾り、おだんごをつくりましょう。
生卵を割り入れて、汁と薬味で「月見うどん」をたべましょう。
子どものころのように。