能登演劇堂のマクベス

日経新聞 第17回 10月24日掲載
パーソナリティをつとめているラジオ番組『浜美枝のいつかあなたと』(文化放送・日曜10時~11時)に8月、仲代達矢さんをお迎えした。仲代さんはご存知のように、日本を代表する俳優の一人であり、75年より舞台俳優養成のための私塾「無名塾」を主宰している。
「今は私にとって赤秋の時。真っ赤な秋を真っ赤に生きようとこの秋、石川県七尾市の「能登演劇堂」で能登でしか観られないシェイクスピアの「マクベス」を演ります」
仲代さんは目を輝かせつつ、76歳の新たな挑戦について語ってくださった。
その仲代さんの言葉に誘われ、先日、能登中島の森に抱かれた「能登演劇堂」で、まさしくこの劇場でしか見られない「マクベス」を堪能してきた。舞台後壁が開くや、馬に乗ったマクベスが駆け下りてきてストーリーが展開する。本物の森が動き、舞台装置の一部となるのだ。ダイナミックな演出、そして仲代さんの深みある演技。心にしみる素晴らしい舞台だった。
能登演劇堂は、日本では珍しい演劇専門のホールだ。無名塾が中島町で合宿していたことが縁で、当時人口8,000人の町の年間予算の約3分の1を投じて、1995年に開館した。そこには石川県能登半島を演劇文化エリアとして定着させたいという地元の思いがある。開館から14年、東京など県外からも人が集まるようになり、50日間のロングランの「マクベス」は切符も完売であるという。
芝居を見た帰り、能登七尾から金沢まで1時間45分鈍行列車に揺られた。舞台の余韻を味わうには、特急ではなく各駅停車に流れるゆったりした、そして人の匂いがする時間がふさわしいように思ったのだ。