NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~神奈川県南足柄市・千津島地区」

今夜ご紹介するところは神奈川県南足柄市・千津島地区です。
千津島地区は南足柄市の北東部に位置し、酒匂川の開口部に位置した美しい農村地域です。
南足柄は私の住む箱根町のお隣の市です。南足柄は「古事記」などによると、官道であった足柄道を通じて、都の文化が東国に伝えられたと記録され、「万葉集」には足柄道をいく旅人の歌がいくつも収められています。
箱根・仙石原から「金時登山口」を経て金時山を抜け、静岡県の県境に、足柄峠・金時山ハイキングコース、足柄峠から万葉ハイキングコースもあり一度は歩いてみたいコースです。
以前、NHK・BSで「日めくり万葉集」に出演したことがあり、箱根にちなんだ歌を選んでほしいとのご依頼があり、
「足柄の 箱根の山に 粟蒔きて 実とはなれるを あはなくも怪し」
を選んだことがございます。「農の歌編」です。私は詠み人知らずの歌がとても好きです。その土地を旅している気分になれるからです。南足柄の地は、古来より歴史とロマンに彩られてきました。
この歌を詠んだ女性は、山を切り開いたような畑で粟を育てていたのでしょう。険しい山間で粟を育てるのはさぞかし大変だっただろうと思いますが、おおらかで、素朴な言葉遊びの歌に読み込まれた女性の心を想像するのは楽しいです。「粟は実ったのに、あはない」の素朴な掛け言葉に、ふられた女性の何か突き抜けた感じ、ちょっとした心のゆとりを感じました。
粟は今だと5月頃に種を蒔き、10月から11月にかけて収穫します。ですからこの女性は、もう半年も、男性との逢瀬が途絶えているのかもしれません。そして、当時の人々は、絶えず神や自然に対する信仰心や恐れを持っていたのでしょう。とりわけ、足柄峠には、荒ぶる神が御座す、と考えられていたと思います。
私は古代料理研究家の方に教えていただいて、当時の農民の方々の主食を再現してみました。粟8、玄米2の割合で釜で炊いてみましたが、美味しかったです。「南足柄市観光マップ」を見ながらそんなことを思い出しました。
さて、千津島地区には小田原から大雄山線に乗って”まさかり・かついだ金太郎”を目指してガタゴトと地味ですが、とても貴重な名物車両に乗り、終点の大雄山駅で下車します。
箱根外輪山や丹沢山系の稜線を遠くに眺め千津島地区まではのんびり歩いて30分ほどです。農道では、夏にはピンクの「ハナアオイ」と黄色の「キンケイギク」が、9月中下旬には「酔芙蓉(すいふよう)」や「彼岸花」が季節の移り変わりを告げてくれます。
ふくざわ公園を中心に四季折々の花々が地域の人により大切に育てられています。この地域は住民による手づくりの地域づくりを行政がサポートして作り上げられてきました。「地域づくりは人づくり」をモットーとし、作業に参加した人々の和が固い絆で結ばれています。
公園とその周辺で「菜の花・春めきまつり」が3月14日~22日まで開催されています。会期中、メイン会場では昔懐かしい童謡が流れ、のどかな農村景観は、まさに美しい農村の原風景があります。家族でゆっくり春の風を感じてください。
そして、大雄山駅に戻り、隣の駅「富士フイルム前駅」から徒歩5分のところに、中沼地区があります。南足柄市を流れる狩川沿いの小道「春木径(はるきみち・右岸)」、「幸せ道(左岸)」に菜の花が河原を埋める黄色いジュータン。そしてピンク色に染まり始めた早咲き桜「春めき(足柄桜)」が満開を迎えています。私は先週行ったので5分咲きでしたが、今週末が一番美しいようです。幅約2m、長さ約200mにわたって続く花ロードは地元のボランチィアグループの人たちが、植栽したそうです。
「あしがら花紀行」は花による地域おこしです。派手な観光資源はありません。
「だからこそ、花というきっかけでこの地に足を運んでもらって、平凡だけど心地よい風景や感動に出会ってほしいのです。」、「歴史に根ざした未来志向の地域づくりを目指しています。」と住民の方は仰います。
都心から80キロ圏の首都近郊都市。
「南足柄」はその利便性でさまざまな旅が楽しめます。
春木道・幸せ道の桜並木でも、「桜まつり」が行われています。
20日(金)、21日(土)、22日(日)には、地場野菜や加工品、足柄人形などの販売の他、名物の焼きそば、こんにゃく味噌おでんなども楽しめるようです。
ちょっと足を延ばすと、さまざまなハイキングコースがありますし、市内散策では
○古え物語コース
○伝承の旅人コース
○故事伝来コース
○天狗伝説コース
○金太郎伝説コース
など、市が発行している「南足柄市観光マップ」に詳しい説明とわかりやすい地図が載っています。JR小田原駅の観光案内所もしくは、大雄山駅で手に入れることが出来ますので、それをお持ちになって歩くことをお勧めいたします。
見所は、あじさい・藤棚・紅葉の美しい「大雄山最乗寺」、万葉集に詠われた足柄道に関連する7つの歌碑がたち、万葉の花木が植えられている「足柄万葉公園」、酒匂川の上流内川にかかる落差23mの滝で金太郎が産湯をつかった滝と伝えられている「夕日の滝」は新緑・紅葉ともに美しく、夏はキャンプ場が開かれ水遊びで賑わいます。

【旅の足】
~電車~
小田原駅から伊豆箱根鉄道大雄山線で終点大雄山駅下車。
全長9、6km―単線のローカル私鉄。ほぼ終日12分の運転間隔なのでとても便利です。無人駅が多いが、ICカード乗車券Pasmo・Suicaは使用可能です。
~車~
東名大井松田ICから県道78号線で約15分。金太郎歓迎塔手前の交差点を右折してしばらく行くと千津島地域になります。
詳しくは、南足柄観光マップをご覧になるか、南足柄市役所商工観光課にお問い合わせを。
電話0465-74-2111(代表)