NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~宮城県 大崎市 鬼首」

今夜ご紹介するところは、宮城県大崎市(旧鳴子町)鬼首(おにこうべ)です。
鳴子ダムの奥に位置し、なだらかな裾野がひろがる山麓の中に三十以上の源泉が湧く温泉郷です。神秘的な景観、山間に湧き出す豊富な湯、周辺一帯にはブナの原生林も姿を残し、大柴山、矢楯山、水沢森など、1,000m級の山々が連なっています。
一帯はカルデラ地帯で、須金岳、禿岳に囲まれ、私の訪ねた6月の上旬も12月の上旬も美しい姿を見せてくれました。今頃は小雪が舞っているそうです。間もなく本格的なスキーシーズンを迎えることでしょう。
鬼首(おにこうべ)、珍しい地名ですね。いろいろな伝説がありますが、はっきりしたことは分かっておりません。かつては鬼切辺(おにきるべ)とも呼ばれていたとか・・・。
アイヌ語的に考えると、荒湯(あらゆ)は壮美な硫黄質温泉、荒湯大神はアラユオンカムイ、オンは大、カムイは神、鬼首はオンネカムイの訳、オンネが鬼と転じ、それを知らずに鬼伝説が起き、いつしか鬼切部・・・鬼首(おにこうべ)になったのでは・・という説もあり、いずれにしても、いかにも古戦場にふさわしい地名です。
地獄谷遊歩道は約600mにわたって小さなかんけつ泉が足元から噴きあげ、渓谷に沿ってあちこちで見られます(約20分ごとに15m以上もの高さまで熱湯を吹き上げ、足止めをくいます。)
6月には珍しい白雲木の美しい白い花を見ることができました。
荒雄川神社には鬼首が生んだ名馬「金華山号」が祭られています。

さて、今回鬼首の温泉、雄大な自然もそうですが、すばらしいここでの活動をご紹介したいと思います。
鬼首は「食の宝庫」です。
春一番雪解けを待って出てくるフキノトウ、川ふちにスノハ(イタドリの一種)ヨモギを摘みヨモギ餅、桜が咲く頃にはウド、ワラビ、コゴミ等など山菜の宝庫。鬼首では、ゼンマイは、食用ではなく、かつては換金するものだったそうです。
今回も、フキの煮付けやら漬物、自家製の味噌で、きのこいっぱいの味噌汁。そして・・・美味しい美味しい、”おむすび”。冷めても、もちもち感ののこる「ゆきむすび」をご馳走になりました。

かつては、この一体は人が住めるところではないと言われ、そんな原野に入り開墾をしてきたのです。
生活の中心となった囲炉裏で魚を焼き、餅や芋などを焼き、鉄瓶、鉄鍋を下げて煮炊きをし、馬をとても大切にしていたので、母屋の中に厩(うまや)があったそうです。
ここ鬼頭には、少しづつの変化を経ながらも、自然と共にある、自然に生かされた、はるか遠い昔から続けてきた暮らしが今も残っています。

さて、今回ご紹介するのは 「鳴子の米プロジェクト」です。
農水省は07年、4ヘクタール以上の大規模農家に集中し補助金をだすという政策を出しました。しかし、鬼首のような山間の地域は対象外になり、農業の継続が難しくなってしまいます。
「食」をめぐる偽装や、輸入食品の安全問題など、今、「食」がゆらいでいます。
作る人、食べる人、みんなの力で地域の農を守りたい。そんな思いで生まれたのがこのプロジェクトです。「食」を人任せにせず、作り手と食べ手が手を繋ぎ、大切な「食」を守り、地域の活性化へ繋げようと立ち上がったのです。今や日本の山間地の美しい田園風景が大きく変化する中で、このような官民一体となった取り組みに胸を打たれました。
そしてこのプロジェクトは、NHK仙台 開局80周年記念としてドラマ化されました。
タイトルは、「おコメの涙」。
来年1月2日BS2で再放送されます。
始めは、ほんの三反部から始まった鳴子の米づくり、「東北181号」は名前を変えて「ゆきむすび」となりました。人と人を結ぶにはふさわしい名前ですね。「生産者・消費者」ではなく「作る人・食べる人」になると、グンと距離が縮まる気がします。
二年前からはじまった「田んぼ湯治」・・・「種まき湯治」から始まり「田植え・稲刈り・稲こぎ・」そして収穫祭を迎え、人々の笑顔が目に浮かびます。
今年収穫された”ゆきむすび”も完売とか。
農村に新しい風がふいてきました。

【旅の足】
東北新幹線で古川まで。そこから陸羽東線で鳴子温泉下車
バスで鬼首まで約20分。
今回、私は”リゾートみのり”に乗りたくて乗車。
ゆったりとしたリクライニング・シート。
伊達政宗の兜をイメージした「アンティックゴールド」を装飾した力強い車両で、のんびり秋の田園風景を楽しみました。

12月以降の運転日は時刻表などで確認してください。