NHKラジオ深夜便「大人の旅ガイド~東京都庭園美術館」

「1930年代・東京」アール・デコの館(朝香宮邸)が生まれた時代
  2008年10月25日(土)~2009年1月12日(月・祝)
今夜ご紹介するのは、東京・白金台の「東京都庭園美術館」です。
私は、映画も落語も、ショッピングも美術館も、もっぱら「お一人さま」。たまに気の合う友人とご一緒しますが、ひとりなら自分のペースで気ままに行動できます。
遠出の旅も素敵ですが、私がおすすめしたいのが近場の美術館。介護で疲れているとか、なんとなく鬱々している時など、ぜひ、美術館に一人で行くことをおすすめいたします。美術館は一人でいても誰も不審に思いません。しかも、そこに作品が飾られていれば、心を和ませてくれる力があるはずです。人の少ない平日の午前中がお進めです。
私は以前、NHKの「日曜美術館」のキャスターをつとめたこともあり、お気に入りの美術館をいくつも心のリストに持っています。東京都庭園美術館もそのひとつ。
この美術館はもと、朝香宮邸として昭和8年に建てられたものです。戦後の一時期には、外務大臣公邸、迎賓館としても使われていました。それから半世紀たった昭和58年に美術館に生まれ変わったのだそうです。ラリックのガラスのレリーフや壁面を覆うアンリ・ラパンの油彩画、壁や天井、階段の手すりなどのモチーフのおもしろさ、照明器具の見事さ、窓の美しい曲線など東京の真ん中にいるのを忘れてしまいます。
そもそも、国立科学博物館付属自然教育園の中に建つ美術館ですから、いかに緑に包まれているかがお分かりでしょう。大きな木がたくさん茂っている庭です。木々の間を抜けてくる風に吹かれながら、本当に贅沢な時間が味わえます。
今回は「1930年代・東京~アール・デコの館(朝香宮邸)が生まれた時代」が開催されていました。私が訪れた日は、空が綺麗に晴れ渡り、気温も湿度もバランスの良いお天気でした。
旅から旅へと動き続けた日々、ちょっとひと休み。晴れ渡った空に誘われて、私は思い立って、白金台の庭園美術館まで出かけてまいりました。陽はまぶしいほどなのに、カラリとした空気はひんやりとして、かといって決して寒くなく、こんなバランスのいいお天気はそうそうありません。暖かすぎる秋が長かったせいか、本当に秋らしいおしゃれが楽しめなかった・・・と思いませんか。「早く晩秋のおしゃれがしたいわ」と、東京の友だちは嘆いていたくらいですもの。
早速、私はちょっとおしゃれをして、そこに行きたいと考えました。なぜかと言いますと、ドレスコード割引「紳士淑女の帽子スタイル」・・・帽子をかぶってご来館されたお客さまは、団体料金でご入場いただけます。と、あったからです。なんとも肌ざわりのいいフカッとしたセーターに、ロングスカートは細身の黒、裾にちょっとスリットが入っています。この場合、靴はどうしましょう。ハイヒールでは疲れるので私はスニーカーを選びました。ちょっと粋なスニーカー。私のお気に入りです。そして帽子をかぶって。目黒駅から歩いて7、8分。イチョウの葉で黄色一色の絨毯です。
東京都庭園美術館は今年、開館25周年を迎えるのだそうです。先の20周年では「アール・デコ様式・朝香宮が見たパリ」展が開催され、やはり、その時にもまいりました。オートクチュルの最盛期から現代までの変化をたどった服飾展「パリ・モード1870~1960年・華麗なる夜会の時代」を見ました。パリ・モードは、いつの時代も女性たちの夢を紡いでくれました。私達が見たこともない時代であってもドキドキするほど美しいのです。
女性がただひたすら美しく優雅であることを求められた時代、ウエストの細さは女性が自我を押し込めた狭い空間そのものだったのかもしれません。20世紀初頭には、ガラっと変わるのです。女性の近代化は服の変化とともに、急激に軽やかになっていきます。シャネルは、服で女性解放を果たしたといわれます。私が始めてシャネルの服を買ったのは、イギリスで007を撮っていた時。週末に出る給料をおし抱いて、白黒の千鳥格子のスーツを買った思い出があります。
 
さて、今回開催されている「1930年代・東京」。私は1943年生まれです。1923年の関東大震災により、東京は壊滅的な被害を受け、1930年には特別都市計画法が作られ、なんとか帝都復興が関されたそうです。
「大東京の出発・1930」で、評論家・作家の海野弘さんは、「1930年に東京は『大東京』になった。東京市は15区で、渋谷、目黒、品川などはまだ区外であった」と書かれています。30年代はまだまだ世界的に暗い時代を想像してしまいますが、今回の展覧会を見て驚きの連続でした。なんとモダンな大東京なのでしょうか・・・。
東京駅を中心に丸の内界隈、銀座など、生まれ変わった(復興した)東京の姿を絵画、写真、彫刻、工芸、書籍、ポスター、絵葉書などから読み取ることができます。近代的な建物が立ち並び、モダンな意匠がそこここに見られます。空の玄関口、羽田国際飛行場が開港されたのもこの時代。カフェ、ダンスホール、劇場、デパートなど、私が10代の頃に憧れていた世界が、今に続くのです。1930年代は、日本が戦争へと傾いていった時代でもありました。
そんな目で改めて都会の風景や、空、人々の暮らしを見つめると、日本のモダニズムから、和洋の融合がみてとれ、胸がキュンとしてくるのは、1943年生まれのせいでしょうか。
余韻に浸りたくて、美術館の庭園の椅子に座り、しばしぼーっとしておりましたら、中年の女性2人はお弁当持参で、楽しい語らいをしておられました。庭には黄色や赤色のバラが咲き、晩秋の一日を楽しみました。
12月6日に記念講演が開催されます。
「アール・デコの東京~震災復興の時代と建築」
松葉一清氏(武蔵野美術大学教授)
午後2時~3時30分 定員250名(先着順・無料)
住所 東京都港区白金台 5-21-9
最寄駅 目黒 白金台
TEL 03-3443-0201
FAX 03-3443-3228
休館日 毎月第2・第4水曜日(祝祭日の場合は開館し翌日休館)、年末年始
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