親環境農業に思う-琉球新報「南風」

先週、韓国を訪ねた。目的地のひとつに、ソウル郊外の八堂(パルタン)地域があった。八堂地域は、ソウル市民の飲み水となる漢江(ハンガン)の上流にあたり、この地域では、ハンガンの水質をまもるために、環境を守るための親環境農業が行われている。「親」とは環境農業の親しむという意味である。
この地域で親環境農業がスタートしたのは1994年。水質保全のための、農薬や化学肥料の使用抑制、糞尿の排出禁止などの規制強化が行われ、12軒の農家で取り組み始めた。今では生産者会員が約90軒までに増え、それをソウル市の消費者がしっかりと支えている。
この地域の有機農産物はソウル市内のデパートやスーパーなどで積極的に販売。安全な農産物を食べるためには、農村の環境を守ることが不可欠だと販売を通して消費者に伝え、消費者も環境農産物だからと選択するまでなってきたという。
14~15年前まで、まったく認知されていなかった環境農業が韓国で急速に人々に浸透した現実を肌で感じ、正直、胸が熱くなった。この他にも韓国では、有機農産物をはじめとする親環境農業による農産物の生産、そして有機農産物の消費拡大のための活動などが実に積極的に行われている。一方、2001年4月から有機認証制度が始まったにもかかわらず、マーケットの広がりが思ったほど進んでいない日本の現実がある。
もちろん韓国では、国家主導の下、生産者へのバックアップが充実しているなど、条件の違いもある。それにしても、いずれ世界的な市場開放から免れないだろうとして、環境農業を生き残りのひとつの方向としていく見識には深い共感を覚えた。
沖縄はさんご礁の保全など、積極的に行っていることで知られる。その環境に対する温かなまなざしを、大地や水にまで今後、広げていってはどうだろう。豊かな大地が豊かな水を育み、その水が豊穣な海を育てるのだから。環境は循環しているのである。
琉球新報「南風」2006年10月3日掲載