高田宏さんをお迎えして

1990年に読売文学賞を受賞した高田さんの名著「木に会う」を読んだときから、高田さんは、気になる存在でした。前世は木ではなかっただろうかと思うほど、私は木に深く引かれていて、大きな木に出会ったりすると、幹に手をあて、木肌に耳をつけて木の鼓動を感じずにはいられないようなところがあるのです。
人間の歴史に向き合い、生命ある樹木に直接触れ合いながら、木とともにある文化、木とともにある生活、木とともにある生命への思いを綴った高田さんの「木に会う」は、以来、私にとってかけがえのない1冊となりました。
このたび高田さんが「木のことば 森のことば」と知り、早速拝読し、ゲストとしてお迎えすることができました。この本も、読み進むうちに、今、自分が森の中にいるような、木と対峙しているような、そんな気持ちにさせてくれる1冊です。美しさと荒々しさをあわせ持つ森。木や生き物が発する生命の息吹が満ちた森。森という自然のドラマについても、あますことなく教えてくれます。
高田さんは、低く静かに話される方でした。こちらが一心に耳を澄まさずにはいられなくなるような、そんな魅力がありました。高田さんは、森にあっても、木を前にしても、こうして語りかけ、たぶん、私がそうしたように、耳を澄まして、森や木の声を聞いていらしたのではないでしょうか。木や森と共鳴する高田さんの言葉は強く優しく、私の胸に、しみわったっていくかのようでした。きっと、リスナーのひとりひとりの胸にもしっかり届いたのでは。
この本は、人間の生き方をも考えさせてくれる1冊です。本屋さんで見つけたら、ぜひお手にとってみてください。
「わたくしたち木は 
争うことなく生きているのでございます。
嵐の日 強い風に枝を吹き折られることもございます
雪の日 雪の重さで枝を折られることもございます
それでも わたくしたち木は
優しい大地に根を張って
静かに生きているのでございます
(中略)
あなたがた人間は忙しく動きすぎるのではありませんか
ときどきはわたくしたち木のそばにおいでになって
静かに休んでみたらいかがでしょうか
わたくしたちのように争わないで静かに生きてみたらどうでしょうか
あなたがたがわたくしたちの幹に手をあててくださるのを
わたくしたちはいつも待っているのでございます」
(「木のことば森のことば」1章「木のことば」より)

木のことば・森のことば 木のことば・森のことば
高田 宏

筑摩書房 2005-10-04
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