花織に思う-琉球新報「南風」

私の宝物のひとつに、与那嶺貞さんの花織の着物がある。
ご存知の方も多いと思うが、貞さんは、琉球王府の美の象徴であり、民族の誇りでもあるこの花織を、見事に、復元した女性である。
私は、民芸を訪ねる中で、彼女と出会う幸運に恵まれ、以来、ことあるごとに、お訪ねさせていただいたのだった。
彼女の人生は、多くの沖縄の女性と同様、過酷なものだった。第二次世界大戦で夫をなくし、自分は銃火の中を三人の子どもを抱えて逃げまわられた。終戦後、女手ひとつで三人の子どもを必死で育てられた。
そして、その子育ても終わった55歳のときに、貞さんは古い花織のちゃんちゃんこに出会ったのである。琉球王府の御用布であったにもかかわらず、工程の複雑さ、煩雑さから、伝統が途絶えてしまった花織だった。
その復元を決意した貞さんは、幾多の苦労を経てなしとげ、ついには人間国宝となり、2003年の1月に94歳でその生涯を終えられた。
今も、ふとした折に、私は貞さんの口癖を思い出す。
「女の人生はザリガナ。だからザリガナ サバチ ヌヌナスル イナグでないとね」
ザリガナとはもつれた糸。ザリガナ サバチ ヌヌナスル イナグは、もつれた糸をほぐして布にする女性のことだと、聞いた。
貞さんのこの言葉と、その生き方に、私はどれほど励まされてきたことだろう。根気よく糸をほぐすためには、辛抱も優しさも必要だ。そればかりではなく、ほぐした後にどんな織物を織ろうかと、未来へつなぐ希望も感じられる。
辛抱、優しさ、希望のすべてが含まれたこの言葉は、今の世の中にもっとも必要な教えのひとつではないだろうか。
琉球新報「南風」2006年7月18日掲載